大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和25年(し)27号 決定 1951年2月09日

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

弁護人坂谷由太郎の抗告理由について。

憲法三七条三項前段所定の権利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければよいのである。(昭和二四年(れ)第二三八号、同年一一月三〇日大法廷判決判例集三卷二号一八五七頁)そして被告人が自ら弁護人を依頼することができないときに裁判所は被告人のために弁護人を選任する義務を負うのである。本件において原審は昭和二四年八月一〇日被告人に対し弁護人選任に関する通知を出し、その通知書には弁護人を選任することができること貧困その他の事由によって弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができると記載してあり、右通知に対し同月一八日被告人から原審に対し八月一七日弁護人坂谷を選任した旨を回答しているのであって被告人から右のように自ら弁護人を選任すると回答した場合には裁判所としては国選弁護人を選任する義務を負わないのである。論旨は裁判所が控訴趣意書提出期間の通知をする際に被告人に現に弁護人のない場合には一旦弁護人を附した上でなければこれを為すことができないと解すべきであると主張する。しかしかかる解釈をすることは毫も憲法の要請するところでないことは前記大法廷判決の趣旨からみても明らかであるのみならず刑訴法上からもこれを肯定することはできない。記録によると原審は昭和二四年九月一日控訴趣意書提出最終日を同年九月二六日公判期日を同年一〇月二一日午前九時と指定し同年九月二日その旨被告人に通知してあり、弁護人坂谷由太郎の選任届は同年九月一三日裁判所に提出されていることが明らかであるから弁護人が選任されてから控訴趣意書提出最終日までには二週間の余裕があったのである。そして被告人の住所も弁護人の住所も札幌市内にあるのであるから弁護人が選任されてから弁護人は被告人又は裁判所と十分な連絡をとれば控訴趣意書提出期間内に趣意書を提出し得た訳である。それが期間内に提出できなかったことはむしろ弁護人側に責任があるものといわなければならない。以上の次第で原判決には憲法違反の違法なく論旨は理由がない。

よって刑訴四三四条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例